今頃彼は・・
物静かな青年だった。
純粋に山に登るのが好きで
何も分からないのに、ただ
ひたすら時間を見つけては
黒岩を登っていた。
ある日、私の所へ来てヨーロッパの
山の話を聞かせてくれとと言った。
私は彼を自宅に招き入れ
つものように山の話に花を
咲かせながら、時には山登りは
「こうあるべきだ」などと
お説教がましいことを言ってしまった。
どんな反応をししているか
おそるおそる彼の目を見ると
身じろぎもせず、目を輝かしながら
私の話を聞き入ってくれていた。
私は彼の心の中に「目指すは信頼される
ガイド」ですという、声にならない
確かなメッセージを感じていた。
帰りに彼は玄関を出るとき
そこに散らかっていた靴を揃え
深々と一例をして帰って行った。
その時も今日のように冷たい雪が
降っていた。
久々に電車に乗って仕事に行った帰り
新幹線の暖房に、うとうととしながら
昔のことを思い浮かべていた。
今頃彼はどこで何をしているのだろうか。
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